李清照『一剪梅』を暗唱してみた|全文・ピンイン・意味と「西楼」の世界

李清照『一剪梅』 中国語
李清照『一剪梅・紅藕香残玉簟秋』

今回、TLIの中国語マンツーマンレッスンで先生が紹介してくださったのは、宋代を代表する女性詞人・李清照の『一剪梅・红藕香残玉簟秋』です。

ちょうどレッスンの日が「中秋の名月」だったこともあり、秋や月にまつわる美しい詞として選んでくださいました。

私は中国の映画やドラマ、C-POPが好きなのですが、今回のレッスンでは、『一剪梅・红藕香残玉簟秋』から、昔の映画や歌、そして、李煜『相见欢・无言独上西楼』へと話題が広がりました。

この記事では、李清照『一剪梅・红藕香残玉簟秋』の4コマ漫画・全文・ピンイン・意味とともに、実際に暗唱して感じたことや、レッスンでの気づきもご紹介させていただきます。

みなと
みなと

1980年代の中華圏の文化をリアルタイムで体験したわけではないのに、先生の学生時代のお話を聞いていると、なぜか一緒に「あの頃」を懐かしんでいるような不思議な感覚になりました。

TLIの宿題は、李清照『一剪梅・红藕香残玉簟秋』の暗唱

漢詩や詞の暗唱を宿題に出してほしいとお願いしていまして、今回選んでくださったのが、李清照の『一剪梅・红藕香残玉簟秋』です。

前回の賈島『題李凝幽居』では、なかなか言葉が頭に入らず、家じゅうに付箋を貼ったり、リズムをつけたりと随分苦労しました。

ですが、今回の『一剪梅』は、割とすんなり覚えることができました。

暗唱するのに少し慣れてきたからというのもあると思いますが、それよりなにより『一剪梅・红藕香残玉簟秋』の言葉が流れるようにつながり、情景が次々に頭の中に浮かんだからだと思います。

新婚の李清照が、服の裾を少し持ち上げて舟に乗る姿。
憂いを帯びた表情で、空を飛ぶ雁の群れを眺める姿。
「花自飘零水自流」は秋の光景ですが、私の頭では桜の花びらが水面を流れていく光景が浮かびました。

さらに、詞の場面があちこちへ飛ばず、外の景色 → 離れている相手への思い → 自分の内面へと、カメラがゆっくりフォーカスするように進みます。

今回は特に、詩の情景を頭の中で4コマ漫画のようにつなげられたことで、「意味の理解」と「暗唱すること」が自然につながりました。

みなと
みなと

詩によって読みやすさや感じ方が全然違うなぁとしみじみ思いました。

李清照『一剪梅・红藕香残玉簟秋』とは

『一剪梅・红藕香残玉簟秋』は、宋代を代表する女性詞人・李清照(Lǐ Qīngzhào)の代表作のひとつです。

李清照は、繊細な情景描写と自分の心の動きを重ね合わせた詞で知られ、中国文学史を代表する女性文学者として今も広く親しまれています。

「一剪梅」は作品固有の題名ではなく、曲の型を表す詞牌名(cí pái míng)です。
そのため、この作品は最初の一句を添えて『一剪梅・红藕香残玉簟秋』と呼ばれます。

みなと
みなと

『水調歌頭・明月几时有』も「水調歌頭」が曲の型を表します。当時は、「水調歌頭」なら「水調歌頭」、「一剪梅」は「一剪梅」の同じ旋律で謳われたそうですが、楽譜が残っていないので、どんな曲調だったのかはわからず、現代風の曲でアレンジしたりして流行歌として歌われていたりします。

詞は、

红藕香残玉簟秋

――紅い蓮の花が衰え、竹の敷物にも秋の冷たさを感じる――という、美しい季節の描写から始まります。

そこから、ひとり舟に乗る姿、空をゆく雁、月に照らされた西楼へと景色が移り、やがて離れている相手への「相思」が前面に出てきます。

そして最後は、

才下眉头,却上心头。
(ようやく眉間から消えたと思ったら、今度は心に浮かんでくる)

と、消そうとしても消せない思いを詠んで終わります。外の秋景色から始まり、最後には心の奥へと入っていく…この流れこそ、最大の魅力です。

4コマ漫画で見る『一剪梅・红藕香残玉簟秋』の情景

今回も、詞の情景を頭に入れやすくするために、4コマ漫画のように場面を分けてイメージしました。

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『一剪梅・红藕香残玉簟秋』

3コマ目の雁の群れがどうしてもV字飛行にならなかったのと、私の脳内イメージということもあり、4コマ目は秋なのに桜の花になっております。ご了承ください。

李清照『一剪梅・红藕香残玉簟秋』全文・ピンイン・意味

李清照『一剪梅・红藕香残玉簟秋』の原文・ピンイン・日本語の意味を並べてご紹介します。

《一剪梅・红藕香残玉簟秋》李清照

红藕香残玉簟秋
Hóng ǒu xiāng cán yù diàn qiū
紅い蓮の花は衰え、香りも薄れ、竹の敷物にも秋の冷たさを感じます。

轻解罗裳,独上兰舟
Qīng jiě luó cháng, dú shàng lán zhōu
軽やかに衣を整え、ひとり美しい舟に乗ります。

云中谁寄锦书来?
Yún zhōng shuí jì jǐn shū lái?
雲のかなたから、誰が手紙を届けてくれるのでしょう。

雁字回时,月满西楼
Yàn zì huí shí, yuè mǎn xī lóu
雁の群れが列をなして戻ってくるころ、月の光が西楼いっぱいに満ちています。

花自飘零水自流
Huā zì piāo líng shuǐ zì liú
花はおのずと散り、水はおのずと流れていきます。

一种相思,两处闲愁
Yì zhǒng xiāng sī, liǎng chù xián chóu
同じ一つの恋しさを、離れた二人がそれぞれの場所で抱えています。

此情无计可消除
Cǐ qíng wú jì kě xiāo chú
この思いを消し去るすべはありません。

才下眉头,却上心头
Cái xià méi tóu, què shàng xīn tóu
ようやく眉間から消えたと思ったら、今度はまた心の中へ浮かんできます。

暗唱するなら、この三か所を味わいたい

『一剪梅・红藕香残玉簟秋』は全文が流れるようにつながっていますが、特に印象に残ったのが、次の三か所です。

雁字回时,月满西楼

雁字回时,月满西楼。
Yàn zì huí shí, yuè mǎn xī lóu

「雁字」は、雁の群れが、V字=「人」の形で飛ぶ姿を表しています。

空をゆく雁を見上げ、その向こうから手紙が届かないだろうかと思う。
そして気がつけば、月の光が西楼いっぱいに満ちています。「西楼」は憂いや寂しさの象徴。

李清照が少し憂いを帯びた表情で、V字になって飛んでいく雁を眺めている姿が浮かびました。

一种相思,两处闲愁

一种相思,两处闲愁。
Yì zhǒng xiāng sī, liǎng chù xián chóu

ここは、「一种」と「两处」の対比が絶妙。

一つの同じ思いを、離れた二人がそれぞれ別の場所で抱えていて「同じ気持ちでつながっている二人」と「離れている二人」の両方が見えてくるように感じます。

才下眉头,却上心头

才下眉头,却上心头。
Cái xià méi tóu, què shàng xīn tóu

そして、特に秀逸なのが最後の一句。

下 ↔ 上、眉头 ↔ 心头と、言葉がきれいに対応しています。

眉間に表れていた憂いが、ようやく消えたと思ったら、今度は心の中へ浮かんでくる。

忘れようとしても忘れられない「相思」を、まるで本当に体の中を動いているもののように表しているのが、とても面白いと思いました。

みなと
みなと

「西楼」は、西に日や月が沈むことから、物悲しい夕暮れや夜の情景を想起させます。故郷を遠く離れた詩人が郷愁に浸ったり、囚われの身となった皇帝が亡国偲んだりする場面の象徴として詩に詠まれてきました。

「却上心头」が映画のタイトルに

『一剪梅』の最後に出てくる、「才下眉头,却上心头」の「却上心头」は、そのまま映画のタイトルにもなっています。

1980年代に台湾で公開された映画『却上心头』で、先生がレッスン中に教えてくださいました。主演俳優さんが歌っているテーマソングの中に、詩のフレーズが出てきます。

劉文正-閃亮的日子チャンネルより

私はこの映画が流行していた時代の中国語圏文化を、リアルタイムで体験してはいませんが、先生から当時の映画や歌の話を伺うと、一緒に「あの頃」を懐かしんでいるような、不思議な感覚になりました。

古典が昔のものとして閉じているのではなく、後の映画や音楽の中にも生き続けていることが、とても面白く感じられました。

みなと
みなと

日本だと在原業平の和歌からの「ちはやふる」が映画のタイトルになっている。みたいな感覚でしょうか。

「西楼」から李煜『相见欢・无言独上西楼』へ

『一剪梅・红藕香残玉簟秋』の「月满西楼」という言葉から、先生がもう一首、有名な詞を紹介してくださいました。

李煜の『相见欢・无言独上西楼』です。

冒頭は、

无言独上西楼,月如钩。

「声もなく、ひとり西楼へ上ると、空には鉤のような月」という情景です。細い三日月ですね。

李清照の『一剪梅』では「月满西楼」。
李煜の『相见欢』では「独上西楼」
。

同じ「西楼」と「月」が出てくるのに、そこに込められた寂しさや「愁」の色合いは少しずつ違います。

李煜(937~978年)は南唐最後の皇帝として知られ、国を失った後の詞には深い哀しみがにじんでいます。

亡国への思いを抱える李煜の「愁」から、恋しい相手を思う李清照(1084~1150年代)の「相思」へと、別の作品や時代へつながっていくのが、中国古典を読む面白さだと感じました。

中国のテレビ局の公式チャンネルに王菲(フェイ・ウォン)さんが歌っている動画がありましたので、よろしければ▼

中国音乐电视 Music TVチャンネルより

テレサ・テン『独上西楼』と『但願人長久』へ

李煜の『相见欢・无言独上西楼』は、テレサ・テンさんの歌『独上西楼』としても知られています。

先生とのやり取りを通じて、「西楼」という一つの言葉が古典の詞と現代の歌がつながるのが本当にワクワクしました。

さらに面白かったのが、テレサ・テンのアルバム『淡淡幽情』には、この『独上西楼』だけでなく、以前、暗唱した蘇軾『水調歌頭・明月几时有』を歌にした『但願人長久』も収録されていることです。

前に勉強した『明月几时有』が、ここで今回の『一剪梅・・红藕香残玉簟秋』につながりました。

李清照から李煜へ。李煜からテレサ・テンへ。以前暗唱した蘇軾へ戻ってくる。

一つひとつは別々に覚えた作品ですが、少しずつ線につながっていくと、中国語の世界が一気に立体的になっていくように感じます。

『独上西楼』『但願人長久』を収録した『淡淡幽情』はこちらです▼

李煜と宋徽宗|芸術に秀でた二人の皇帝

今回のレッスンでは、李煜(り・いく)からさらに話が広がり、先生が宋徽宗(そう・きそう)についても教えてくださいました。

李煜(937~978年)は、五代十国時代の南唐最後の国主です。
書画や音楽にも通じ、とくに「詞」の名手として知られています。南唐が宋に滅ぼされた後の作品には、故国を失った悲しみが色濃く表れています。

一方の宋徽宗(赵佶)(1082~1135年)は、北宋の第8代皇帝。
こちらも皇帝でありながら、書や絵、詩など芸術の分野で大きな足跡を残した人物です。

先生のお話を伺いながら面白いと思ったのは、二人とも「亡国の皇帝」であり、後世まで作品が残る文化・芸術に深く関わった人物だったことです。

一首暗唱するところから始まり、気がつけば李煜、宋徽宗、そして中国王朝の歴史へ。レッスンの「末広がり」の面白さを存分に味わいました。

みなと
みなと

ちょうど仲秋の名月の日だったこともあってか「秋と憂い」つながりで、見識が広がって深まって非常に楽しい2時間でした。

『一剪梅・红藕香残玉簟秋』暗唱の途中経過

今回も、練習の途中経過をボイスレコーダーに残しました。

『一剪梅・红藕香残玉簟秋』暗唱録音、暗唱はできたものの…

前回の『題李凝幽居』では、覚えること自体にかなり苦労しましたが、今回の『一剪梅・红藕香残玉簟秋』は言葉の流れがなめらかで、情景も頭に浮かびやすかったため、比較的スムーズに暗唱できました。

漢字を思い浮かべるのえではなく、4コマ漫画を上からたどって、頭の中の映像に沿って暗唱していく感じでした。

いざ、先生の前で暗唱+録音付き

そして今回も、先生の前で暗唱した音声を録音しました。※隣の教室でオンラインレッスン中だったので、少し周りの声が入っています。

そして、隣の教室にも人がいると思うと(実際には先生一人で、なおかつオンラインレッスン中なので、私の声など耳にも入らないと思いますが…)全く集中できず…。言い訳ですね。

先生の前での暗唱はなぜこんなに緊張するのか

暗唱して気づいたこと&注意されたこと

今回、暗唱そのものは比較的スムーズにできたので、少し欲が出て、せっかくの美しい詞なのだから、李清照になりきって情感を込めてみようとしましたが、録音した自分の声を聞くと、全然できてないやん。でした。

発音についての指導は、今回も先生から特に「u」の音をもっともっと口をすぼめるように言われました。今回の詩で言うと、书(shū)、处(chù)、除(chú)の音です。

長年染みついたクセで「ü」の発音にしてしまうことが多く猛省です。とにかく意識。完全な「u」にするように。2度めの指導です。

反対に出来ていると言ってくださったのは、云(Yún)や、谁(shuí)、水(shuǐ)の隠れた「e」の音の発音でした。

発音もまだまだなのに、正しい発音で詩を覚えることと、気持ちを乗せて朗読することは、フェーズが違いますし、「暗唱する」先にある「朗々と詠う」には、まだまだ全足りないことを実感した宿題になりました。

自己採点は、できてないし、変なことをしたせいで40点です。欲張らず、一歩一歩。ですね。

暗唱はほんの数分。残りは教科書とHSK6級対策

ここまでの内容から、レッスンの大半を漢詩や詞の話で過ごしているように見えるかもしれませんが、実際には、『一剪梅・红藕香残玉簟秋』の朗読や暗唱そのものは、レッスン開始からのほんの数分です。

残りの時間は教科書の内容を勉強したり、HSK6級の問題対策を教えていただいたりしています。

最近、集中して取り組んでいるのが、病句を見つけたり、意味の似た単語をどう見分けるかを、「なんとなく」ではなく理由を考えながら解いていくことです。

以前の私は、HSKの問題も「こちらのほうが中国語らしい気がする」と、かなり語感に頼って答えていました。根拠のない自信。みたいなものです。

今は、単語の組み合わせや使う場面、語順、主語と述語の関係などをひとつずつ確認し、「なぜこちらが正しいのか」を考えるようになりました。

日本語より「搭配(単語の組み合わせ)」が厳しい中国語。何となくではなく、比較項目を頭に浮かべて問題を解いていくのが、答えがスパッと分かって楽しくなってきました。

漢詩を声に出して中国語の美しさを味わうのと、HSK6級の問題を通して、中国語の仕組みをロジカルに考える。

この両方を行ったり来たりしながら学べることが、私にとってTLIのレッスンが楽しくてたまらない理由だと思います。

みなと
みなと

担当の先生との、過ごしてきた場所の記憶や、価値観・嗜好が似ているのもレッスンが楽しい要因だと思います。TLIの日本人スタッフの方のマッチングに感謝です。

まとめ

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作者・李清照のイメージ図

今回の『一剪梅・红藕香残玉簟秋』は、言葉がなめらかで、情景も頭に浮かびやすく、とても暗唱しやすい詞でした。

ですが、暗唱した先に「情感たっぷりに朗読」という次のフェーズがあることに気付いてしまいました。

そして、一首の詞から、昔の映画や歌、李煜や宋徽宗、中国の歴史へと話が次々に広がっていって、ワクワク充実した時間になったのがとても嬉しかったです。

実際のレッスンでは、詩の朗読や暗唱はほんの数分で、残りの時間は教科書やHSK6級の問題を使い、出題傾向に沿ってロジカルに考えながら勉強しています。

中国語の美しさを味わう時間と、中国語の仕組みを勉強する時間。

その両方を行き来しながら学ぶことで、昔覚えた中国語の点が、少しずつ線になってつながり直しているように感じます。

今回も、中国語を学び直す楽しさをたっぷり味わえたレッスンでした。

みなと
みなと

毎週の暗唱も習慣化ができて、生活の一部になりました。前々回の詩を暗唱して。と言われると、完全に忘却の彼方で、「打ち上げ花火」状態ですが笑。

私が通っているTLIについては、実際に受講した体験をこちら↓でまとめています。

▶【TLI体験記】東京校でレッスン開始!中国語歴25年以上の私が初回授業で感じたこと

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